東洋医学では、暑さや寒さ、湿度や乾燥、風も病気の原因(五邪)と考えます。自然の大きな力に逆らうことなく、四季を楽しみながらの未病対策をお話します。
湿邪
からだに水分をためこまない
梅雨時期の雨は、植物の成長に欠かせないものですが、高い湿度は、私たちの体調にも大きく影響します。これを東洋医学では「湿邪」とし、重くて粘々した性質があるため、頭や手足が重い・だるいという症状や関節痛・膀胱炎の原因になりやすいとされています。また、食欲がなくなったり下痢をしたりするのは、東洋医学では、「脾」と呼ばれる胃などの消化器が、最も「湿邪」に侵されやすいからです。食べ物を消化して、栄養を巡らせるはたらきの器官が弱ることで、疲労倦怠感などの全身症状がでます。ですから、もともと胃の弱い方は早々に「夏ばて」になり体調をくずしがちです。
対策
この時期を乗り切るには、水分代謝を良くし、食べ過ぎを避けて胃の機能を保つことが大切。食材は大きく五味(香辛料の辛味、塩辛味、酸味、苦味、甘味)に大別され、それぞれ異なる働きがあり、おもに「甘味」が胃を守ります。この甘味は、食材そのものの味のこと。多くの果物やニンジン・ジャガイモ・サツマイモ・山芋・カボチャ・豆類(豆腐も含む)などが「甘味」に分類されますが、これもたくさん食べるとからだに熱がこもり、水分がたまりがちになります。余分な水分を排出する食材には、スイカ・ゴーヤ・トウガン・小豆・ハトムギなどがありますので、うまく組み合わせてください。食事以外の湿邪対策として、お風呂はぬるめのお湯(38度くらい)にみぞおち辺りまでゆっくりつかりましょう。また、普段から、早く歩く習慣をつけることで水分代謝の改善が期待できます。
アドバイス
心身の発するサインがちゃんと聞こえていますか?分からないことや不安なことは、お近くの薬剤師に相談してみてくださいね。
暑邪
熱をさまし、かつ冷やしすぎない
最も太陽のエネルギーを受ける季節の外因「暑邪」は、上へ上へと向かって燃え上がる炎のような性質をもち、これにおかされると、ほてり・のどの渇き・むかつきといった熱中症や日射病のような症状が起こります。東洋医学では「心」と「小腸」が「暑邪」に弱いとされ、「心」は心臓や血液のような循環器官だけでなく、同じ読みの「神(精神)」をも意味し、動悸・息切れやイライラ不眠のような精神症状も起こすと考えられています。また小腸は消化以外に免疫にも関与するため、小腸の機能低下は、栄養分の消化不良だけでなく、夏風邪や皮膚トラブルの一因となります。
対策
「暑邪」に打ち勝つには、からだにたまった熱をさますことと、汗で失われた水分・ミネラルの補給が基本です。ただし、さましすぎて冷えると、ばててしまうので加減が大事です。「心」をいたわり、熱を取るのはゴーヤ・ゴボウ・ビール・緑茶・コーヒーのように「苦い」食べ物や飲み物、そしてトマト・キュウリ・ナス・冬瓜のような夏野菜です。これに「辛い」食べ物(七味唐辛子・ニンニク・ショウガのような薬味や大葉・ニラ・ネギのような香草)も一緒にとることで冷やしすぎを防げます。暑気払いの代表選手「焼き肉とビール」……残念ながら、牛肉やマトンは余計からだに熱をこもらせるので、比較的こもらせにくい豚肉も取り、肉より野菜の量を多くすると、欠点をカバーできます。またビールは「苦味」にはちがいないのですが、過ぎたるは及ばざるがごとし……です。
アドバイス
眠れない、イライラするなどの症状も未病です。暑さだけでなく冷房や冷たい飲食物も未病の原因となるのでご注意を。
燥邪
潤いを得て抵抗力高まるキノコ類、果物
長い夏の暑さから解放されて、さわやかな季節となりました。じっとりとまとわりつくような大気に汗ばんでいた肌は、風に吹かれて、さらりと乾きます。秋や春は空気が乾燥するため、「燥邪」に侵されやすくなるのですが、からだの中で最も乾燥を苦手とするのは肺と大腸です。肺は東洋医学的には、気のエネルギーを生成して全身に巡らせるとともに、血液、水分の巡りや排泄にも関与します。燥邪が鼻や口から入り込んで肺が弱ると、新しい気のエネルギーができないため、呼吸器症状だけでなく、抵抗力(免疫力)も低下します。具体的には、口やのど・皮膚の乾燥、鼻づまり、空咳、目の充血などの症状のほか、大腸の乾燥による全身倦怠感や免疫力の低下などがあげられます。乾燥は美容面にも大きく影響します。年齢を重ねることを「枯れる」といいますが、肺が弱って潤いをなくすことで、見た目の若さも失われがちです。
対策
潤いには、季節の果物、柿や梨を食べるようお勧めします。また冬に備えて免疫力を高めるには、旬のキノコ類がすぐれもの。最近はやりの電子レンジによる温野菜の要領で、キノコも簡単に調理して、レモン汁と岩塩またはゴマダレなどでおいしく食べることができます。とはいうものの、肺の養生には正しい呼吸が第一。特にたばこの煙は、燥邪の侵入以前に肺の機能を低下させ、ウィルス感染や炎症をおこしやすい下地を作ってしまいます。食養生と同時に煙害にはご注意ください。
アドバイス
秋は、憂いがち。時には高い空や樹木に視線を移し、いつもより早足で歩いてみてください。からだと心がシャキッとしますよ。
寒邪
軽い運動と“温”の食材でからだを温める
今年は長い暑さの後、秋が足早に過ぎ、からだが寒さに慣れずに風邪を引いた方も多いのでは?冬の主な外因「寒邪」には、現代では冬に限らず夏にもクーラーの利き過ぎなどでなりえます。からだの中で、寒邪の影響を受けやすいのは、腎と膀胱。漢方でいう「腎」は、腎臓だけでなく周りの副腎や生殖器なども含み、食べ物から得られるエネルギーに対して、生まれながらに親から与えられた生命エネルギーの生産工場といえます。また、不要な水分を排泄し、使える水分をリサイクルする働きもします。寒邪が侵入すると、エネルギーがうまく作れないために気力がなくなったり、冷えによって縮こまった場所の血液や水分の流れが悪くなったり、痛みを生じたりし、結果的には冷え性やしもやけ、肩・膝・腰の痛み、頻尿などを引き起こします。
対策
「腎」を養うのは「鹹味(塩辛み)」ですが、現代の日本人は塩分のとり過ぎですので、お勧めしません。それよりも、温めることで寒邪を追い出してください。普段からストレッチや軽い筋トレ、早歩き、腰湯などでからだを冷やさないようにし、内側から温める食事を心がけることです。温かい鍋物やシチューのほか、ネギ・ニラ・ショウガ・ニンニク・トウガラシ・コショウなど「熱」や「温」の性質を持つ食材をうまくプラスしてください。ホットウイスキーにクローブ、ホットコーヒーシナモンなど、飲み物にはスパイスの活用がお勧め。それでも改善しない冷えには、「人参四物飲料」などの漢方薬をお試しください。
アドバイス
寒いからと、つい背中を丸めていませんか?
悪い姿勢は首や肩のこりにつながります。あごを引いて、肩の力をぬき、頭のてっぺんを空から吊られているような意識で歩きましょう!
風邪
風寒と風熱 風邪の種類見極めて
今回は、「風邪」と書いて「ふうじゃ」と読む外因です。梅雨のころの「湿邪」がどんよりと重苦しい性質をもつのと対照的に、風邪はふわふわと軽い性質なので、手足のしびれ・震え・かゆみなど体の表面の症状や、頭痛・鼻水・鼻づまり・のどの痛みなど首から上の症状を引き起こします。時期的には春に強くなり、季節性のアレルギーや湿疹などの原因となったり、湿度の高い雨の日などには風湿の邪に変わって関節炎やリウマチなどの痛みの原因になったりします。このような痛みに使われる代表的な漢方薬は「疎経活血湯」です。
対策
風邪は身軽で動きやすいため、湿邪以外にも寒邪・熱邪などと一緒に侵入してきます。一般的にいう風邪には、風邪+寒邪の「風寒」と風邪+熱邪の「風熱」とがあります。風寒の場合、体温計で測って熱があっても、からだに冷えがあり、ゾクゾクしたり、首筋がこったりします。体力が中等度以上で汗をかいていない時には、葛根湯や麻黄湯を、汗をかいて弱っている時には桂枝湯などを用います。漢方薬を飲んだ後は仕事を休み、温かい麺類やお粥を食べ、暖かくして寝ることが特効薬となります。風熱の場合は反対に、熱がなくても熱っぽく感じ、のどの痛みなどの症状が起こります。このような風邪には、銀翹散を用い、果物を食べたり、額やわきを冷やしたりして、からだ全体の熱をとることが大切です。いずれにしても「『邪』が入ったかな」というタイミングをとらえて、養生してくださいね。
アドバイス
貝原益軒の養生訓にも「風・寒はもっと畏れるべきである。ながく風と寒にあたってはいけない」とあります。風邪やインフルエンザは、罹ってからの治療より、予防を心がけましょう。
熱邪
山菜パワーでからだに熱をこもらせない
熱邪は、火が燃え盛るように上へ上へと向かう性質を持つため、体内に入り込むと、からだの上部に症状が現れます。具体的には、のぼせ・めまい・頭痛・目の充血・歯茎の腫れなどで、精神状態が不安定になって睡眠障害が起こることもあります。また熱がこもることで、出血しやすく、できものができやすくなります。日々の生活では、熱邪そのものが入り込むより、今までお話した湿邪・暑邪・燥邪・寒邪・風邪が体内で長期間とどまって熱邪に変わることの方が多いといえます。熱邪が燃え続けると、からだの水分やエネルギー(気)を消耗して潤いや気力をも奪い去ってしまいます。
対策
熱をこもらせないためには、苦みやコクを持つ春の山菜がお勧めです。フキノトウや菜の花、フキをはじめ、最近はタラの芽、コゴミ、ウルイ、若ゴボウなども手に入るようになりました。さっと灰汁を抜いてお浸しに。また、少なめの衣をつけて揚げ、岩塩で食べると、口の中に春が広がります。苦みには辛みのある物が相性はよいのですが、中でも春菊やシソ、チンゲンサイなどのように冷やす性質のものを一緒にとるといいでしょう。豆腐、トマト、蕎麦も冷やす性質をもつ仲間ですから、シソをのせた冷奴や、トマトの冷製パスタ、山菜おろし蕎麦などもいいですね。また、山菜や根菜には食物繊維が豊富なので、熱がこもって便秘しやすい人にも適します。現代の養生は多くの場合温めますが、熱邪に対しては反対に冷ましたり、他の外邪を早めに追い出して熱をこもらせないことが大事な養生、すなわち未病を治すことといえます。
アドバイス
季節に応じて外邪を防ぐと同時に、ご自分の闘う力(免疫力)も強くしてください。季節の野菜をしっかりとり、からだを動かすこと、腸をきれいにすることが基本です。これからも自然に逆らわず、巡り来る季節に応じた未病対策を心がけてくださいね。
夏ばて
胃を働かせ 良い循環を取り戻す
猛暑の今年は、多くの方が、からだの不調を感じておられることでしょう。「夏ばて」とひとことでいっても、気温と湿度が上がり始める梅雨期から朝夕涼しくなる秋ごろまで、さまざまな症状が起こります。東洋医学的には、からだに熱や水分がこもったり、反対に気のエネルギーや水分がこもったり、反対に気のエネルギーや水分が不足したりすることを、「夏ばて」の原因と考えます。たまったものは外へ出し、足りないものを取り入れるのが基本的な考え方ですが、まずは、不足した気のエネルギー(気虚)を補い、胃の働きを改善して、食べものから栄養分を吸収し、全身に巡らせて、気を充実させるという良い循環を取り戻すことが重要です。そのためには、人参・黄耆という生薬の入った漢方薬を用います。「補中益気湯」「清暑益気湯」などが代表的な処方です。比較的早い時期にばてた方は、もともと胃が弱い場合が多いので「胃苓湯」「六君子湯」などで胃を丈夫にしていくことも大切です。最近美容面で注目されているプラセンタエキス(紫河車)やあな燕の巣(燕窩)も疲労回復作用のある生薬です。プラセンタエキスには安眠作用があり、また燕窩は胃を整えて、気を巡らせる作用が認められており、両者とも栄養分を全身に行き渡らせ、抵抗力を高めてくれます。食欲がないからといって、消化がいいとされる麺類を流し込んでいては、余計に胃に負担がかかります。「消化のいいものを食べる」というよりは、食欲のないときこそゆっくり噛む習慣をつけて「消化のよいもの」にして食べてください。
よく噛むための工夫
- 麺類にワカメ・納豆・オクラなどをトッピング
- 冷奴にいためたちりめんじゃこやゴマをトッピング
- ヨーグルトにリンゴの角切り・ドライフルーツ
- 刺し身は大根やキュウリのつまや紫蘇葉と一緒に
アドバイス
季節に応じて外邪を防ぐと同時に、ご自分の闘う力(免疫力)も強くしてください。季節の野菜をしっかりとり、からだを動かすこと、腸をきれいにすることが基本です。これからも自然に逆らわず、巡り来る季節に応じた未病対策を心がけてくださいね。
冬の健康
こまめな運動で筋肉をつけて冷え解消へ
日々寒さがつのる季節になりました。寒くなると私たちは鍋料理を食べたり、ビールを熱燗に変えたり、シャワーですませず湯船につかったりと、自然に体を温めています。冷えや低体温は、風邪などの感染症やアレルギー、痛み(肩こり・腰痛)、胃腸障害(下痢・便秘)、肥満・むくみなど、様々な症状や疾患を引き起こす万病のもと。冷え性というと女性特有のものと思われがちですが、男性でも食事の偏りや運動不足・ストレス・加齢により冷えが進行します。たとえ手足の冷えを感じなくても、体の中心が冷えることでメタボリックシンドロームや腰痛の原因となります。また、胃の冷えを改善する漢方薬には「小青龍湯」があり、これは年明けに悩む方の多い花粉症治療の方剤でもあります。日常生活で、体を温める食品や飲み物をとり、温泉や腰湯・足湯で温まり、カイロ・湯たんぽなどを活用することは大切な知恵です。一方で根本治療として、運動して筋肉をつけることをお勧めします。とはいえ、特に運動時間を作らなくても、テレビを見ながらのストレッチやスクワット、階段の上り下りのような簡単な動作、いつもより速く多めに歩く意識の継続が大事(腰やひざに痛みがある場合は、プールでの歩行が最適)。筋肉には、体に熱を発生させ、下半身の血行を良くするポンプの働きがありますから、冷え解消の救世主といえます。しっかり体を動かす習慣をつけて筋肉が増えると、基礎代謝が高まり、メタボ解消・老化防止・認知症予防などうれしいおまけがたくさんついてきますよ。
冷えを防ぐ工夫
- 小物利用のポイント保温(マフラー・レッグウォーマー・長めの手袋・腹巻き)。
- 厚着より、暖かい下着で肌と密着。
- 指先、足の裏マッサージで血行促進。
※カイロや床暖房は低温やけどにご注意ください。
アドバイス
寒いからといって、着膨れや締め付けは逆効果。首・手首・足首・おなかをやんわりと温めることがポイントです。